宇宙の彼方で合体したブラックホールの出す重力波がアメリカで検出される

2017年6月1日の、カリフォルニア工科大学のプレスリリースに次のようなものがありました。

LIGO Catches its Third Gravitational Wave!

(LIGOが第三の重力波を検出!)

発表の内容を簡単にまとめると、次のようになります。

  • 物質は自分の質量に応じて周囲の時空を歪めている。この効果は波のように空間を伝わるので重力波と呼ばれている。
  • アメリカに設置された2台のレーザー干渉計LIGOが、ほぼ同時刻に微小な信号を観測した。
  • データ解析の結果、この信号は30億光年離れたところで2つのブラックホールが合体した際に出た重力波によるものとわかった。

重力と重力波

自然界には大きく分けて4種類の力があり、それぞれ電磁力、強い力、弱い力、重力と呼ばれています。これらのうち、重力以外の3つの力は理論物理学によって体系的にまとめられ、かなりの範囲で理解されています。ところが、重力に関する理論は少し様子が異なっており、他の3つの力のように統一して理解することが難しいとされています。重力に関する研究にはいくつかの大きなテーマがあり、そのうちのひとつが今回の記事で紹介する重力波です。ほかには、重力の逆二乗則がどこまで小さな空間で成り立っているかを調べる研究というのもあります。

重力波については、東京大学宇宙線研究所などの推進するKAGRA実験のウェブサイトがわかりやすく解説しています。

重力波とは?

一般相対性理論と重力波

質量を持った物質は、自らの質量に応じて、大なり少なり周囲の時空間に影響を及ぼすとされています。これはアインシュタインが一般相対性理論で予言した現象で、およそ100年前から唱えられてきた仮説ですが、実験的に直接検証することはとても難しいとされてきました。重力のつくる空間のさざ波はとても小さく、わずかな雑音があるだけでも見えなくなってしまうのです。

一般相対性理論の検証は1974年に発見されたわし座の連星パルサーにおける公転減衰で間接的に確立されていましたが、直接の検証は重力波を観測するしかなく、長年の課題となっていました。強い重力波は基本的に大質量の天体から出てくるため、重力波検出器は一種の天体望遠鏡と見なすことができます。重力を使った天文学が発達すれば、電波観測では見えないような天体や現象が観察できるようになり、宇宙の理解が飛躍的に向上することが期待されます。

重力波測定器としてのレーザー干渉計

そこで、重力波の微弱な信号を精度よく測定するための測定器が開発されてきました。今回の記事にあるLIGOは世界で最も優れた重力波検出器で、アメリカのワシントン州Hanfordとルイジアナ州Livingstonに1つずつ、合計2台が設置されています。これらはレーザー干渉計と呼ばれる種類の、2本のレーザーを使った高精度な距離の測定器です。

レーザーは空間の中をどこまでもまっすぐに進んでいきますが、光なので鏡を使って反射させたり分岐させたりすることができます。また、2つのレーザー光を重ね合わせると、海の波が重なり合って大きくなるのと似たような強め合い、弱め合いの現象が起こります。これらの性質を応用して、ある地点から打ち出した1本のレーザーを2本に分岐させ、しばらく空間を飛ばしてから合流させたあとの光を調べることで光の通ってきた距離を精密に求めることができます。これがレーザー干渉計による測量の原理です。

LIGO; Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory

LIGOでは、光の通り道は片道4 kmもあり、分岐させてから合流させるために2組存在します。ふたつの光路はL字型に組み合わさっています。この光の通り道における空間が重力波によってわずかに歪むことで、合流したあとの光のつくる模様が変化します。この変化を解析することで、重力波をとらえているのです。模様の変化する様子から、どの程度の質量の天体が発した重力波なのか、どの程度遠くからやってきた重力波なのか、ということがわかります。

レーザー干渉計による重力波探索は1970年代から行われており、特に日本とアメリカでさかんに研究されてきました。LIGOは2002年に観測を開始してから2回の大きな改造を経て研究を続け、2016年についに重力波の決定的な信号を検出しました。今回のプレスリリースは、そこから数えて通算3例目の重力波検出ということになります。

今回の成果

検出されたのは、太陽の32倍の質量を持ったブラックホールが、同じく19倍の質量を持ったブラックホールと合体し、49倍の質量を持ったひとつのブラックホールになった際に放出された重力波とされています。ブラックホールの質量は、重力波信号のパターンを解析することで算出されています。元になった星の質量は32+19=51であるのに対し合体後の質量は49なので、ブラックホールが合体する際に、太陽質量の2倍のエネルギーが重力波として放出されたと言えます。

今後の展望

これだけでも素晴らしい成果ですが、現状ではこの重力波が宇宙のどの方角から来たものかはよくわかりません。ただ、地球から30億光年離れた遠くから来ているということは重力波信号の解析からわかっています。もし、LIGOに続く第二第三の重力波観測装置があれば、それらの情報を組み合わせることで重力波の到来方向がわかり、天文学的な意義がますます大きくなります。LIGOに匹敵する性能を持つ装置には日本のKAGRA望遠鏡があり、2016年3月から試運転を開始しています。今後の結果が楽しみです。