痒みを感知する神経細胞は苦痛を和らげる働きも持つ

医学系ニュースサイトのMedicalXpressに、次のような記事がありました。

Itch neurons play a role in managing pain

(痒み神経細胞には苦痛を制御する機能がある)

記事の内容を簡単にまとめると、次のようになります。

  • 痒みを知覚する皮膚上の神経細胞からの信号は、痛みを知覚する細胞からの信号と同じ経路を通って脳に届く
  • 痒みを知覚する細胞は、大きな苦痛を遮断し、小さな苦痛を素通しにする制御機能を持つ

この記事は、神経学の専門誌Neuronsに掲載された論文

“Leaky gate model: intensity-dependent coding of pain and itch in the spinal cord”

(漏洩ゲートモデル、脊髄における苦痛と痒みの強度に依存した伝達)

に基づいて書かれています。ここでは、もう少し詳しく記事の内容を説明してみます。

研究の内容

Johns Hopkins大学の研究グループは、マウスを使った実験によって痒みと痛みの信号が皮膚から脳にどのように伝達されるのかを調べました。痒みを知覚する細胞を破壊されたマウスは、体を掻くことがなくなった一方で、尻尾の火傷などの比較的軽度な痛みに対し、通常のマウスよりも過剰な反応を示すことがわかりました。この結果が示唆するのは、痒みを脳に伝える信号と、痛みを脳に伝える信号の通り道は独立ではないということです。この事実だけでは、痒み細胞の機能が失われることで痛み細胞が活性化する、というような解釈を排除できないように思えますが、ほかにも脊髄を流れる電気信号を追跡する実験を行っており、そちらの方で信号の通り道を確定させているようです。

痒み細胞が破壊された状態では、痛みを伝える信号がとめどなく流れっぱなしになるということが実験によってわかりました。痒み細胞の状態と、与える痛みの信号強度を変えながら実験を行うことで、次のような状況が見えてきたようです。

・痒み細胞健全、弱い苦痛:苦痛信号が脳に届く

・痒み細胞健全、強い苦痛:苦痛信号が脳まで届かない

・痒み細胞破壊、弱い苦痛:苦痛信号が脳に届く

・痒み細胞破壊、強い苦痛:苦痛信号が脳に届く

ここから、痒み細胞は、強い苦痛細胞からの信号を遮断し、比較的弱い苦痛の信号は素通しする、という機能を持っていることが示唆されます。この結果に対して、研究グループは”Leaky gate model”という解釈を提案しています。門が閉ざされた状態でもわずかに隙間が空いていて、大きなものはせき止められるが小さなものは素通りできる、というイメージです。

研究の結果からわかること

痒みの信号と痛みの信号が同じ経路で脳に到達するということは、ある種の苦痛がしばしば痒みを伴うことを説明できます。また、痒み細胞のゲート機構は、例えば、捕食者に追われた動物が怪我をしながらも逃げ続けるために有用であり、そのような機能のために進化したと考えることができます。アメリカでは10人に1人が慢性の疼痛を患っているとも言われ、この研究から原因の究明や治療法の確立がなされるかもしれません。

 

英語メモ

itch : 痒み

spinal cord : 脊髄

conduit : 水路

corroborated : 強める、確証する

chronic pain : 慢性疼痛