次世代のロケット燃料や送電線に利用可能な金属状態の水素が生成される

先日、科学系ニュースサイトNewScientistで、次のような記事がありました。

Metallic hydrogen finally made in lab at mind-boggling pressure

(金属水素がついに実験室中の超高気圧下で生成される)

記事の内容を簡単にまとめると、次のようになります。

  • 水素を金属化することができると、強力なロケット燃料や超高速のコンピュータ、極めて効率の良い送電線が開発できる
  • 水素を高圧下で金属化できるという理論的な予言は80年前からあったが、技術的な困難から実現したことはなかった
  • Harvard大学の研究グループが地球の中心における圧力以上の高圧環境を実現し、水素を金属化することに成功した

記事の内容は、Science誌に掲載された論文

Observation of the Wigner-Huntington transition to metallic hydrogen

を元に書かれています。ここでは、元論文を参考に今回の成果についてまとめてみたいと思います。

金属水素とは

水素は常温、常圧では透明な気体ですが、高い圧力化では半導体になり、さらに高い圧力化では金属になるという予言がノーベル物理学賞を受賞したユージン・ウィグナーらによってなされていました。ウィグナーの計算では25 GPa(ギガパスカル)という圧力で金属化が起こるとされましたが、後の理論計算ではこの値は低すぎで、実際には500 GPa近い圧力が必要ということがわかりました。大気圧はおよそ1013 hPaであり、気圧に直すとこの値は500万気圧に相当します。地球の中心における圧力はおよそ360 GPaとされており、地球上ではこれより高い圧力は自然には存在しないことになります。

金属化した水素は超伝導性を示すとされ、もし金属水素で送電線を作ることができれば、ほとんど伝送損失のないきわめて高効率な送電システムが構築可能となります。また、金属水素を燃焼させることで従来の5倍も強力なロケットエンジンが開発できるという計算があります。安定な金属水素を作成することは、物質の基礎的な相の理解だけでなく、様々な用途で役立つ応用範囲の広い研究と言えます。

実験室における超高圧環境

地球の中心よりも高圧の環境を人工的に実現するためには、ダイヤモンド・アンビル・セルと呼ばれる装置を使います。これは、人工ダイヤモンドを向かい合わせに配置し、二つを押しつけ合うことで接点にきわめて高い圧力を発生させるというものです。最も硬い物質であるダイヤモンドで物質を挟み込んで圧縮することで、ダイヤモンドに挟まれた物質にはとても強い圧力がかかります。この手法により数G Pa以上の超高圧を実現することができます。また、ダイヤモンドは透明で光を透過するため、高圧下に置いた物質がどのような状態にあるかを、光を使って調べることができます。

ダイヤモンド・アンビル・セルによる水素の金属化

論文によると、今回の実験では495 GPaの圧力を冷却したダイヤモンド・アンビル・セルによって達成し、挟み込んだ水素が金属光沢を発するのを観測したそうです。ダイヤモンドで挟み込んだ水素試料に光を当て、光の反射強度を測定することで試料の反射率を調べ、これがセルの圧力に伴って変化する様子が報告されています。今後は、大量生産するために不可欠な安定性の評価などを行うようです。実用化はまだまだ先の話と思えますが、はっきりとした形で金属水素が確認された世界初の実験であり、今後の展開に期待したいところです。