こうのとりからワイヤーを飛ばして宇宙ごみを除去する試み

NHKニュースで、次のような記事がありました。

宇宙輸送船「こうのとり」 宇宙ごみ除去の実験へ

記事によると、宇宙ステーション補給機こうのとり6号が、宇宙ごみを除去する世界初の実験のためにステーションから分離されたそうです。ここでは、宇宙ごみ問題とその解決策、こうのとりの役割について紹介したいと思います。

JAXAの公式ページには、より詳細な今回の実験についての紹介が書かれています。

HTV搭載導電性テザーの実証実験(KITE)の詳細

こちらを参考に、今回の試みについて簡単にまとめると、次のようになります。

  • 宇宙空間の衛星軌道上には、壊れたロケットや衛星の破片が多数存在し、これを宇宙ごみ(Space debri)と呼ぶ
  • 宇宙ごみは、ロケット、衛星、宇宙ステーションなどに衝突して故障を引き起こすためとても危険だが、これまで除去のための有効な対策がなかった
  • こうのとりは、地上から宇宙ステーションに向けて物資を輸送する補給機だが、補給を終えたあとのこうのとりに特殊な装置を取り付けて宇宙ごみを除去する実験を行うことにした
  • こうのとりから長いワイヤーを宇宙空間に展開し、電流を流すことで発生する磁場の力で、宇宙ごみを減速させて大気圏に突入させるという手法でごみを除去する

最後のポイント、宇宙ごみ除去の仕組みがこれだけではわかりにくいかもしれません。順を追って、もう少し詳しく説明してみます。

宇宙ごみの問題

宇宙ごみとは、使われなくなったり故障したりした人工衛星やロケットの破片が地球の衛星軌道上を周回しているものたちの総称です。あくまで人工物のみを対象とし、彗星や星の破片などとは区別されます。地表から300 km程度の比較的近いところから40000 km程度の遠くを周回するものまで幅広く存在し、大きさも様々です。中には4500トンにもなる巨大な宇宙ごみも存在するそうです。

宇宙空間では空気抵抗がなく、いったん安定した軌道を回り始めた宇宙ごみは何かと衝突したりしない限りは半永久的に周回を続け、いずれは運用されている宇宙ステーションや衛星に衝突し、深刻な被害をもたらします。宇宙ごみの周回速度は軌道高度にもよりますが、毎秒数kmから10 km程度のものが多く、きわめて高速です。これは銃弾の速度とおおよそ同じで、その衝撃の強さも相当です。直径10 cm程度の宇宙ごみが衝突すると、宇宙船は完全に破壊されてしまうといいます。

非常に危険な宇宙ごみですが、除去するための有効な手法はいまだ確立されておらず、宇宙開発上の大きな問題となっています。2013年公開の映画ゼロ・グラビティで物語の発端となったのも、宇宙ごみの宇宙船への衝突でした。

補給船こうのとり

こうのとりの正式名称は宇宙ステーション補給機で、英語名称のH-II Transfer Vehicleを略してHTVとも呼ばれます。地上から宇宙ステーションへ物資の輸送を行うために開発された小型の宇宙船で、最大約6トンの物資を積むことができます。今回の実験では、本来の役目を終えたこうのとりに別の装置を取り付けて宇宙空間に放出しています。

導電性テザーによる宇宙ごみの除去

導電性テザーとは、電気を通すワイヤーのことです(tetherは縛るための綱、鎖の意味)。実験では、こうのとりから全長700 mの長いワイヤーを宇宙空間に放出します。このワイヤー周辺に、こうのとりに搭載した別の装置から電流を流します。より正確には、電子を放出する装置を使って宇宙空間に向かって多数の電子を打ち出してワイヤーにぶつけます。これによってワイヤーに電流が流れ、長いワイヤーにはローレンツ力と呼ばれる電磁気力が働きます。ワイヤーに流れる電流を調整すれば、ワイヤーの宇宙空間における動きを制御できることになります。

ワイヤーを網のように多数展開してそれらの動きを制御し、網にぶつかった宇宙ごみを減速させることができます。宇宙ごみは一定の速度を保っていないと軌道上を周回できないため、このワイヤーを使って宇宙ごみを除去することができます。

この方式による宇宙ごみ除去は世界初の試みで、今回のテザー制御実験は今後の開発のためにきわめて重要な意味を持っています。結果が楽しみです。