地球上に水はいつから存在したか

科学系ニュースサイトのNew Scientistに次のような記事がありました。

Earth’s water must have arrived here earlier than we thought

(地球上の水はこれまで考えられていたよりも以前にもたらされていた)

記事の内容を簡単にまとめると、次のようになります

  • 地球上に水がもたらされたのは、地球が形成された後に降り注いだ隕石によると考えられていた
  • この仮説を検証するためには、隕石の成分と地球内部の成分を比較すればよい
  • しかし、隕石と地球内部に含まれるルテニウム同位体の割合を比較すると、両者は異なっていた
  • そのため、地球上の水の起源は、地球形成後に衝突した隕石ではないことがわかった

簡潔にまとめようと思ったのですが、いろいろと情報が省略されてしまい、かえってわかりにくくなってしまったかもしれません。

記事の出典は、英国の科学雑誌Natureに掲載された論文

Ruthenium isotopic evidence for an inner Solar System origin of the late veneer

(ルテニウム同位体によるレイトベニアが内部太陽系起源であることの証明)

です。ここでは、こちらの論文の内容を踏まえて、記事で紹介されていることの背景を含めてもう少し詳しく説明してみたいと思います。

地球上の水の起源に関する3つの仮説

地球上の生命は、海から誕生したと言われています。海がどのような過程で形成されてきたかどうかを調べることは、地球創生の歴史を紐解く上で重要な課題です。地上の水がどのようにもたらされたのかを説明する主な仮説が3つあります。

  1. コンドライト説 : 地球の種になった無数の小さなケイ酸塩の岩(コンドライト)にわずかに水蒸気が吸着しており、これが大量に集まって海となった
  2. レイトベニア説 : 地球が形成された後に降り注いだ隕石に水が含まれていた
  3. ガス捕獲説 : 地球がある程度の重さになった後、宇宙空間に漂う水蒸気を重力で集めた

それぞれの説を裏付ける決定的な証拠がない一方で問題もあり、未だ結論が出ていないというのが現状のようです。今回の記事に関連しているのは、2番目のレイトベニア説です。

レイトベニアとは

レイトベニア(late veneer)とは、地球がほぼ現在の形、重さになってから隕石の衝突によって形成された薄い地表のことです。ベニアは化粧板、見せかけといった意味を持つ単語で、ベニア板のベニアです。地球全体の重量に比べると、海の重量は0.02%くらいと小さなものです。なので、地球が多数の岩が衝突して合体することで形成された時点で水を持っていなくとも、後から水を大量に含んだ隕石が衝突したと考えれば水の起源を説明することができるのです。彗星のおよそ8割は水分であると言われています。レイトベニアの原因となった隕石は地球の核ができた後に到達したものなので、地球の比較的浅い内側(マントル)に成分の名残が見られることになります。つまり、隕石の成分とマントルの成分を比較すれば、隕石がレイトベニアかどうかが判定できます。

レイトベニア仮説の検証

これは先ほど紹介したNature論文のテーマです。レイトベニア仮説は、地球上の水の起源を説明すると同時に、地球内部にある重たい金属の偏りを説明することができる有力な説です(詳しくは後述)。しかしながら、これまで試みられてきた検証は様々な困難により不十分なものでした(例えば、指標として使う原子が長い年月を経て別の原子に変わってしまう効果が正確に補正できないなど)。そこで、今回の研究では多数の隕石サンプルに対して、含まれるルテニウム同位体の割合をグループごとに調べることで仮説の検証が行われました。解析の結果、隕石に含まれるルテニウム同位体の割合と、マントルに含まれるそれは明らかに異なっていることがわかりました。これによって、これらの隕石がレイトベニアではなかったこと、すなわち地球に水をもたらしたものではないことがわかりました。

議論の流れが少しわかりにくいかもしれないので、大雑把に整理してみます。

1. 地球は細かなケイ酸塩の岩がくっついて形成された。

2. 地球が形成されるに従い、内部には重たいコアが形成された。

3. コアが形成された後、水を大量に含む隕石が衝突して地球に海ができた可能性がある(レイトベニア仮説)。

4. このとき衝突した隕石の成分は地球の比較的浅い内側であるマントルに痕跡として残る。

5. 地球マントルの成分と隕石の成分をルテニウム同位体の量で比較すると、両者は異なっていた。

6. すなわち、隕石の成分はマントルに継承されていない。レイトベニアは存在しなかった。

7. 以上より、隕石が衝突する前に地上に水がもたらされていた可能性が高い。

強親鉄元素の過剰

先ほど、レイトベニア仮説の有力な点として、地球内部にある重たい金属の偏りを説明することができると書きました。これは、本来なら地球の最深部(コア)に集中しているはずの強親鉄元素が、コアよりもマントルに多く存在しているという地質学上の大きな未解決問題に関係しています。強親鉄元素とは、ルテニウムやロジウム、白金などの原子番号が鉄に近い元素たちです。レイトベニアが存在すれば、地球のコアが形成された時点ではコアにもマントルにも強親鉄元素が少なく、後から隕石によって浅いマントルにだけ強親鉄元素が追加された、という形でこの問題を説明することができます。

参考文献

[1]: Mario Fischer-Gödde and Thorsten Kleine, “Ruthenium isotopic evidence for an inner Solar System origin of the late veneer”, Nature 541 (2017) 525–527.

[2]: 石川晃, “マントル中の強親鉄性元素にまつわる 3 つの謎”, 岩石鉱物科学 41 (2012) 203-210.